今回は、【介護施設の改修・整備】工事費用や補助金をご紹介します。
今回は「介護施設で改修を検討すべき症状や改修工事の流れ」「改修・整備工事をする際に利用できる補助金」について解説します。
施設改修を検討すべき症状とは?
介護施設における改修や整備は、以下の4つの症状がある場合に検討することをおすすめします。
- 空調設備が機能していない
- お風呂の設備が故障している
- 施設が老朽化でヒビ割れや水漏れしている
- 入居者のプライバシーが守られていない
①空調設備の故障
介護施設内に設置した空調設備が機能していない場合、改修や整備工事を行う必要があります。空調設備の効きが悪くなっていたり、機器自体が作動しなくなっているなどの症状がある場合です。
空調設備は室内の温度調整や空気の清浄、気流の調整など、快適な生活をするうえで重要な役割を担っているため、正常に稼働していないと入居者が体調不良を起こしてしまう危険性が高くなります。
高齢者の方は、皮膚の温度感受性が鈍くなりやすく、暑さなどを感知しにくくなり重度の熱中症を招く危険性もあるため、できるだけ早い内に改修・整備を検討しなければいけません。
②お風呂の故障
お風呂の設備が故障している場合、整備や改修を行うことをおすすめします。例えば、お湯の出が悪くなっている場合です。
こういった症状が出ている場合、介護補助の業務に支障をきたすうえに、いつお風呂が使えなくなってもおかしくないため、設備の症状が悪化する前に整備や改修を行なった方が賢明だと言えます。
また、浴室内に滑り止めがなかったり、角が尖っていて入居者に怪我をさせてしまう危険性がある場合も改修・整備の検討が必要です。
これらに該当する浴槽を設置している場合、打ちどころが悪いと怪我だけでは済まなくなってしまう可能性も十分に考えられます。
浴槽内に滑り止めが設置してあったり、角が丸まっている浴槽など、安全性の高い浴槽設備に交換することを検討してみてください。
③建物のヒビ割れや水漏れ
施設の建物が老朽化しており、ヒビ割れや水漏れが発生している場合も、すみやかに改修工事を行う必要があります。
こういった症状がある場合は、建物自体の安全性が脅かされているため、放置したままでいると倒壊を招く危険性が高いためです。
建物の老朽化や劣化状況によっては、改修工事ではなく建て替えが必要になるケースもあります。建物の壁にヒビがあったり、水漏れが発生している場合は、できるだけ早く専門家に診てもらうようにしてください。
専門家に建物の状況を確認してもらうことで、現在の建物の安全性を詳細に把握できるうえに、改修工事で済むのかなどを明確に判断してもらうことが出来ます。
④入居者のプライバシーが守られていない
介護施設の中には予算や土地の規模などの問題により、相部屋を採用している施設が少なくありません。
しかし、相部屋は入居者同士のプライバシーが守られにくく精神的負担に感じる方も多いため、個室(ユニット型)などのプライバシーが守られる部屋の構造に変えることがおすすめです。
プライバシーを守れる部屋を提供することで、入居希望者のニーズに応えることができ、施設の運営自体にも良い影響を与えることが期待できます。
介護施設を探す際に、「その施設が個室部屋を用意しているのか」を重要視して入居施設を決める入居希望者が増えていることからも明らかです。
改修や整備の大まかな流れとは?
自身が経営している介護施設の改修工事を行う場合、依頼した業者によって手順が異なるケースもあるようですが、一般的には以下の流れで進めていきます。
- 依頼する改修工事の業者を選定する
- 業者による建物の状況確認や診断
- 改修工事の計画や設計を行い、予算の確認
- 改修工事の施工開始から完了
①依頼する改修工事の業者を選定する
介護施設の改修工事を行う際は、まず「依頼する改修工事の業者の選定を行い、契約を締結」します。
この依頼する改修工事の業者を選ぶ際は、「その業者が得意としている工事や保有している技術」に注視して選定するようにしてください。業者によって得意としている工事内容が異なるためです。
改修や整備を行なってもらいたい箇所を得意としていない業者に依頼してしまった場合、思っていた通りに仕上がらず、再度工事をし直さなければならない事態に陥るかもしれません。
②業者による建物の状況確認や診断
業者を選定・契約した後は、介護施設の現場調査や診断です。現場調査や診断では建物がどの程度劣化しているのか、どの箇所にどのような不具合が生じているのかが、明確になります。
なお、現場調査や診断の際に、利用できる補助金の条件を満たして改修工事ができるのかも踏まえて調査してもらうことも可能です。
対象となる施設が属する、自治体や知事が定めている条件を踏まえて現場調査をしてくれるため、公的な制度を利用できるのか知ることが出来ます。
当然、必ずしも補助金の利用が出来るとは限りません。自治体によって利用できる制度が異なるため、場合によっては補助金を利用できない可能性があります。
補助金を利用して改修・整備工事を行いたいと考えている方は、事前に業者にその旨を伝えておくようにしてください。
③改修工事の計画や設計を行い、予算の確認
現場調査や診断が完了後、改修工事の計画や設計、予算の確認を行います。
具体的には、介護施設の状況や入居状況、調査結果などを踏まえたうえで、依頼者の要望や予算内で計画を立て、打ち合わせをしながら改修工事の設計や計画を立てる流れです。基本的には設計や計画の擦り合わせ後に予算の確認を行います。
希望予算の範囲内で見積もりを出してもらえることがほとんどですが、施設の状況や業者によっては、希望する予算内から大幅に上回るケースもあるため注意が必要です。
④改修工事の施工開始から完了
上記で解説した一連の手順が完了後、改修工事の施工開始日や竣工日が確定し、工事実施や引き渡しが行われます。
ただし、予定している竣工日(工事が終わる日)に改修工事が完了となりますが、状況によっては予定した日数よりも工事が伸びるケースも少なくありません。
特に、大規模な改修工事を実施する場合に、竣工日が延びるケースが多くあります。仮に工事予定日が延びる場合は、事前に業者から相談がありますが、工事期間が延長される可能性があることを考慮して対応するようにしてください。
なお、大規模な工事を行う場合は、定期的に介護施設側(依頼者)と施工者側で工事の進行状況や追加工事の有無などの打ち合わせが行われます。その際、業者によっては工事内容の変更などを依頼することも可能です。
とはいえ、必ずしも全ての業者が追加工事に応じてくれるとは限りません。このため、追加工事や予定していた工事箇所をなくして欲しいなどの要望がある際は、事前に依頼する工事業者に確認を行うようにしてください。
改修や整備にかかる費用とは?
介護施設における改修工事は、依頼した業者や改修・整備箇所によってかかる費用が異なります。例えば、大規模な改修工事を行う場合、1億円以上のまとまったお金がかかるケースも少なくありません。
しかし、目安となる数字を知りたい気持ちもよくわかります。実際に介護施設で行われた改修・整備工事の事例を基に、改修工事にかかる費用の目安をご紹介します。
①大規模な改修工事の費用
大規模な改修工事を行なった場合、施設の規模によってかかる費用が異なります。
例えば、東京都福祉保健局施設支援課が公表した「大規模改修修費補助の活用事例」を見ると、「超強化型の入所48床、通所リハビリステーション15名規模の介護施設」を改修した際にかかった費用は、約1億4,000万円にも及ぶことが分かりました。
同資料の具体的な改修箇所を見ると、以下の箇所の改修を行なっています。
- 建物改修工事
- 電気設備工事
- 給排水衛生設備工事
- 換気設備工事
- 外壁改修工事
上記の改修工事では、具体的にかかった費用の内訳は公表されていませんが、助成金を活用して介護施設の工事を行なったそうです。
②浴室の改修工事の費用
介護施設の浴室の改修工事を行う場合も大規模な改修工事と同様に、施設の規模や老朽化の程度、入居状況によってかかる費用が異なります。
例えば、築年数30年の特養50名、短期入所20名、通所介護30名の介護施設の浴室やトイレなどの改修工事を行なったケースです。浴室やトイレ以外に建物自体の老朽化に伴う工事も行なっているため、約2億3,000万円の費用が発生していました。
工事開始前の見積もり段階では約3億円としていましたが、必ず行うべき整備工事やできれば実施する工事などに区分して打ち合わせを重ねて実施する内容や工事箇所を削減し、約7,000万円を削減することが出来たそうです。
この事例は、建物自体の大規模な改修と併せて浴槽などの改修を実施したケースとなっています。このため、浴室の設備や改修する箇所が限定されている場合は、この事例よりも安い金額で依頼できる可能性が高いです。
補助金を使って改修できる?
介護施設における改修工事を行う際は、工事箇所や内容などに応じて、主に以下の3つの補助金(助成金)を利用することが可能です。
- 大規模な整備や耐震化整備を行う際の助成金
- 多床室のプライバシー保護のための改修時に利用できる助成金
- ユニット化改修する際に利用できる助成金
ただし、各自治体によって利用できる補助金や条件が異なるため、必ずしも全ての方が利用できるとは限りません。
そのため、事前にあなた自身が属する自治体にどのような助成金が用意されているのか確認を行うようにしてください。
ここでは、埼玉県が設けている介護施設の改修で利用できる補助金(助成金)の概要や利用条件について、解説していきます。
大規模な整備や耐震化整備を行う際の助成金
介護施設(特別養護老人ホームや介護老人保健施設、介護医療院など)の大規模な整備や耐震化整備を行う場合、以下の条件を満たすことで補助金を利用することが可能です。
- 定員30人以上の対象となる介護施設の改修工事
- 対象介護施設の新規整備に付き、同施設の広域型施設の大規模整備や耐震化が対象
- 新規で整備する介護施設などや大規模整備・耐震化する施設の場所は、同一の敷地内や近隣に限定されていない
- 整備主体は、同一の法人 など
上記の条件を満たすことで、埼玉県の場合、1定員あたり112万8,000円(2021年10月時点)、工事費または工事請負費の2.6%に相当する上限金額の補助金を受け取ることが可能です。
特別養護老人ホームにおける多床室のプライバシー保護のための改修時に利用できる助成金
入居者のプライバシー保護のために、多床室(2〜4人などの相部屋のこと)を改修工事する場合、助成金を受給することが可能です。
具体的には、介護施設の整備と一体的に整備される改修工事や知事が必要と認めた整備などにかかった工事費用、または工事請負費の2.6%相当額を上限とする補助金を受け取ることが出来ます。
ただし、上記の補助金は「既存の特別養護施設老人ホーム及び併設されるショートステイ用の居住」のみが対象となっているため、注意が必要です。
ユニット化改修する際に利用できる助成金
補助金の対象となる介護施設をユニット化(入居者の部屋を個室にし、個性を活かして暮らせるようにすることを目的とする介護手法の1つ)することを目的に改修工事を行う場合、以下の条件を満たすことで助成金を利用することが可能です。
- 定員30人以上の特別養護老人ホームや介護老人保健施設、介護医療院など
- 介護施設の整備と一体的に整備される改修工事(知事が必要と認めた整備も含む)
上記の条件を満たすことで、ユニット化の改修工事にかかった工事費または工事請負費の2.6%に相当する限度額の補助金を受け取ることが出来ます。
【現役建築士】からのアドバイス
近年、日本は超高齢化社会になりつつあることで、介護施設の需要がどんどん高くなっているため、介護施設の安全性や機能性をしっかりと整備しておくことが重要です。
しかし、ただ闇雲に改修工事を行えば良いと言う訳ではありません。
入居者の中には、施設内の安全性や機能性が優れていてもプライバシーが守られていないことで、精神的・心理的に負担を感じる方もいます。
このため、介護施設の改修・整備工事を検討しているのであれば、施設の安全性の向上と併せて入居希望者のニーズに合った工事を実施するようにしてください。