近年、認知症を含めた精神的ケアのひとつとして芸術療法が注目されています。絵画や造形活動の他、音楽や舞踊、演劇も含めた芸術活動で心の表現を行い治療を促す療法です。精神疾患の他、認知症予防やストレス解消、児童の情操教育にも導入され、その効果は日本認知症予防学会にてエビデンスが認められています。
今回は芸術活動を通したコミュニケーションツールとして開発された、株式会社スプレーアートイグジンのミッケルアートをご紹介します。
株式会社スプレーアートイグジン
<株式会社スプレーアートイグジンホームページより引用>
株式会社スプレーアートイグジンは、2007年に設立された静岡県の会社です。「アートの工業化」を企業理念に、アートを通じて社会課題の解決や児童に夢を与える会社として活動しています。さまざまな施設の壁画や各種資料のデザイン原画の製作等を行なっています。
また株式会社スプレーアートイグジンは、静岡大学発ベンチャー企業です。東京医科歯科大学大学院をはじめとする研究機関と「高齢者の方が絵から過去を回想することで生じる効果」の研究を行なっており、研究成果のひとつがご紹介するミッケルアートです。
ミッケルアート
<ミッケルアートホームページより引用>
ミッケルアートとは、芸術作品を通して高齢者の思い出ややりたいことを、文字通り「見つける」きっかけづくりのためのコミュニケーションツールです。
ミッケルアートはA1サイズとA3サイズの他、映像版や壁画版もあり、壁面に掲示する他にも様々な場所と方法で鑑賞できます。日本各地の観光名所や昭和の懐かしい風景が細やかに描かれており、その美しさは時間を忘れて見惚れてしまうほど。美しい風景画を見ながら会話を広げていくことによって、認知症予防や周辺症状の改善につながる効果が認められています。
ミッケルアートの活用方法<ミッケルアートホームページより引用>
施設内で人が集まりやすいところや廊下などの動線上、エレベーターホールなど立ち止まるような場所に設置し「綺麗な絵ですね」「場所はどこでしょうか」とスタッフが声をかけることで、高齢者とのコミュニケーションをとるきっかけを作ります。思わず見とれてしまうほどの美しさだけでも会話が弾みますが、高齢者が赴いたことのある場所や懐かしさを感じる絵であれば、過去の記憶から多様な経験の話を引き出すことができるかもしれません。
ミッケルアートは2ヶ月ごとに交換することで変化を楽しむことができ、その度に新たな発見を生み出すことができます。
ミッケルアートの効果
<ミッケルアートホームページより引用>
ミッケルアートの効果については株式会社スプレーアートイグジンと東京医科歯科大学との共同研究により、さまざまな正の効果を生み出すことが明らかとなっています。具体的には
- 脳機能の活性化
- 眼球運動の促進
- 発芽数の増加
- 周辺症状の緩和
といった効果が認められており、認知症改善の中でも脳血管性認知症について改善効果が高いことが示されています。
こうした研究結果が学会でも認められ、ミッケルアートは日本認知症ケア学会と日本認知症予防学会で学会賞を受賞しました。
ミッケルアートでその人らしさを見つける
いかがでしたでしょうか。美しいものに触れた時の感じ方は人それぞれに違いますが、芸術作品が時を越えて多くの人に愛されるように、ポジティブな印象を感じる人が多いのではないでしょうか。支援する側は当事者と感動を共感することで会話が始まり、今まで見えて来なかった本質が垣間見えるきっかけにもなり得るでしょう。普段からコミュニケーションが取りやすい人も取りにくい人も、ミッケルアートを介して新たな発見をしてみてはいかがでしょうか。
大手の人材会社に勤務する、入社6年目の女性営業マン。社内では『医療介護業界の情報通』として鳴らし、業界の主要人物とのパイプも持つ。ネットワークの拡大を目指して、フクロウ介護のライターとして今後さらなる活躍が期待されている。趣味は囲碁と将棋、最近は麻雀の勉強にも励む。